レッカー悲話

 その男の人は滝のような汗をかきながら助けを求めに来た。

 正確には男の人達だが、もう一人はウチの店まであと少しの所でバイクを押さえていた。2人はレッカー屋さんだ。

 

 

 私と同年輩のあるお客さんは、1年にほんの数回しか乗らないのに車検を切らさず大切にバイクを所有している。まぁ、そんな人も結構いるかもしれない。

 そのお客さんが一昨日、久しぶりに乗ろうと自分でタイヤの空気圧を入れようとして、チューブレスバルブを折損してしまった。前後タイヤとも。たぶん劣化していたのだろう。悪いことにバッテリーも充電復活せずエンジンも掛からない。

 

 しかし今は便利な世の中だ。任意保険に入っていればレッカーサービスが無料で受けられる。そして冒頭の話に繋がる。

 レッカー車でウチの店まで入って来るのは困難とみて、少し離れた場所から2人で押してきたのだった。

 ペチャンコに潰れて抵抗のかたまりと化したタイヤに、エンジン不動の重みがさらに負荷をかける。3人掛かりでなんとか店まで搬入、空気圧0で車高が低くなっているバイクをジャッキを用いて自立させたところで、レッカー屋さん達は引き上げていった。

 

 さあどうしよう。私は誰かが来店するのを期待したが、こういう時に誰も来ないことを知っている(笑)。諦めて1人でレーサースタンドをたて作業を開始した。

 炎天下で大汗かきつつなんとか終了。こうして私はまた大きいバイクから心が離れていくのである。

 

 レッカー屋さんといえば、先日こんなこともあった。

 パンクして走れなくなったお客さんのバイクを、ご親切にその場で修理してくれたとのこと。 

 ところが翌日またパンクして、結局ウチまで押して来て修理となった。

 

 そりゃそうだよね。チューブタイプなのにチューブレスの修理じゃ治りませんよ、レッカー屋さん。